カレンダーからのアドバイス

違う言葉で言い換え、自分の言葉で言い換えさせるトレーニングは効果的だ。 同じ言葉を反復するのはただそしゃくの丸暗記だが、自分の言葉で言い換えることができれば、その内容が岨噂されて自分の物になっていると相手に示すことができる。
対話が無駄になっていないことが相手にメッセージとして伝わるので、あいづちやオウム返しよりワンランク上の沿う技といえる。 さらに高度な沿う技は「引っぱってくる」技だ。
相手が少し前に言った言葉をもう一度、今の文脈に持ち出すという技である。 使う人がわりと少ない高度なテクニックだが、使ってみると非常に効果がある。
私は時々やるのだが、相手の話の中にキーワードをまず見つける。 相手の口から発せられた言葉を自分も使うと、相手は大変好感を覚えるのである。
その際、直前に言われた言葉を使うとオウム返しになってしまうが、前に言った言葉やその人が他で言った言葉を覚えておいて引用すると「いやあ、君はよくわかっているねえ」と評価される。 当人が言った言葉だから「わかっている」のは当然である。
しかも自分の言葉だから、相手は喜んで話を聞く。 非常に効果的な技である。
この技はメモを取る習慣とセットになって鍛えられる。 話を聞いているだけだと、前にあった言葉を引用しながら、もう一度現在の話に組み込んでいくのは難しい。

メモを取る習慣がついていると、手で書いて、目で見て、さらに文字として残っているので、見て確認することができる。 それを見ながら発想することもできる。
すると対話の織物が仕上がりやすくなる。 前に使った言葉が現在の文脈にも生きてくるので、途切れ途切れの話ではなく、言葉が有機的に絡まりあいながら、会話が一つの織物のように織りなされていく。
厚みのある充実した対話が成立するのである。 引用には、相手の言った言葉ではなくまったく違う外部から「引っぱってきて」、第三の文脈を立てるという技もある。
自分たちが経験している世界だけだとどうしても対話が煮詰まってきてしまうが、外部世界、つまり第三のテキストを組み込むことで、新たな展開が生まれるのだ。 相手の言ったことに沿って外から例を引っぱってくれば、それは沿うことになるし、少しずれた例を出せば、ずらす技にもなる。
ずらす技については、第四章で詳しく述べるが、ともかく自分の経験世界だけで話さず、外部のテキストを共通のテキストとして話すのは、会話を盛り上げるコツである。 相手に共感して深めていく「沿う技」相手の言葉を繰り返す「オウム返しの技」次に具体的な対話の場面を例にとって、コミュニケーションの秘訣、特に「質問力」の実際のコツについて見ていきたい。
まずは沿う技だが、これには主に相手に共感して沿っていく方法(「共感系」) と、相手の考えをまとめる方法(「まとめ系」)、さらにもう一歩進めて、相手の雑然とした考えを整理する方法(「整理系」) がある。 いずれも相手の言っていることをずらすのではなく、相手に沿いながら深めていく。
相手を話しやすくさせていくスタイルだ。 質問の前にはたいていあいづちやうなずきなど身体レベルの共感があることが多い。
まず具体例としてとりあげたいのは『なるほどの対話』(N 放送出版協会) である。 心理学者の K と作家の Y の対談集だが、この中で2人は上手に同調しあっている。
そうは言っても、先ほど Yさんが言われたように、ものごとの流れ全体は、うまくできているとも言えるわけで。 本当に、うまくできていると思います。

考えてやると失敗しますよね。 うまくできているね。
その方が、ほんとやないかね。 ぼくが「偶然屋さん」というように、偶然にうまいこといくということが、非常によく起こるのだから、やっぱりたいしたものやと。
作品だって、全部、そういうふうに説明可能な作品をつくるというのは、おかしちゃうかなって思う。 まず K が「そうは言っても、先ほど Yさんが言われたように、ものごとの流れ全体はうまくできている」と一言う。
つまり Y が前に言ったことを引き合いに出し、彼女の意見をそのまま持って来て、自分の文脈に引き戻している。 それを受けて Y が「本当に、うまくできていると思います」と答えている。
自分自身が言ったことだから、当然同調するに決まっている。 K はさらに追い打ちをかけるように「うまくできてるね」と念押しする。
この言葉はそれほど新しい意味を生み出してはいない。 相手が繰り返し、自分が念押ししているだけである。
だがこの作業を行なうことで共通の地盤が固まるという積極的な意味がある。 一見、新しい意味を生み出さないようでも、次に新しいものを生み出す基盤作りが、こうした同調にはあるわけだ。
繰り返し(オウム返し)という技である。 「うまくできている」という言葉を受けて、「うまくできてるね」と同じ言葉を繰り返す。

繰り返しの技はたとえていえば、ブルペンキャッチャーのようなものである。 プロ野球にはピッチャーに肩ならしをさせる準備専門のキャッチャーがいる。
ブルペンキャッチャーの重要な役割はピッチャーの調子を上げさせることである。 そのためにはキャッチャーミットでいい音を響かせて球を取ることが重要だ。
ピッチャーは、最初は調子が悪くても、ミットの音によって自分の球がどう受け取られたか確認でき、「あっ、けっこう調子が出てきたな」と自信をつけることができるのである。 会話でもいい音をさせて取る技術がある。
「ああ、なるほど」と手を叩きながら繰り返す。 相手と知識を共有していない時にも使える技だ。
会話の潤滑油のようなものだ。 もしブルペンキャッチャーが音のしないミットを使ったら、どうなるだろう。
ピッチャーは肩を壊すに違いない。 球を速く投げているつもりでもまったく音がしなければ、目安がないから無理して投げてしまう。
あるいはまったく投げる気をなくすかもしれない。 いずれにしても悪いパターンに入っていく。
この技は知識の豊富な人と話す場合に使える。 受け方さえ上手なら相手はどんどん話してくれる。

するとこちらは勉強できる。 学んだ内容から、「あっ、先ほど先生が言われたことはこういうことですね」というような戻し方をすると、話に厚みが出てくる。
自分にまったく知識がなくても、充分対話が続くのである。 この場合、必ずしも最初から質問を出す必要はない。
まずは話をうながして、相手の言葉を繰り返しながら同調する。 受け取っているというメッセージを相手に送ることで、相手から新しい話がどんどん引き出せる。
こうした循環を作ることができれば、そのうちにお互いに共有する情報量が増えてくるので、質問の糸口が見出せるだろう。 上手にやらないとうっとうしい技だ。
自然な形でやるには、最初は少しぎこちないかもしれないが、「そうそう」という動作をつける気持ちで相手の言葉を繰り返すとよい。 とくに聞いたことがない専門用語や固有名調が相手から出た時は、繰り返すことで自分のほうが慣れていく。
自分が言った言葉には慣れやすいからだ。 さらに『なるほどの対話』を見ていこう。

Y に対して K は「うまくできているね。 その方が、ほんとやないかね」と述べているが、この時の関西弁がうまい。
方言を抜かないことで、カウンセラー臭さが抜けていくのだ。

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